「姿勢」と「頻度」でよりスムーズな会話に

次にお伝えしたいのは、話しかける「姿勢」と「頻度」についてです。

認知症の方は視野が狭くなっていることが多いため、きちんと話を伝えるには姿勢が大事。相手の正面から目線を合わせて、聞き取りやすい低めの声でゆっくりと話しかけてください。長々と説明せず、要点を簡潔に話しましょう。「はい」「いいえ」で答えられる問いかけだと、相手も応じやすいはずです。

会話の頻度は、できれば1時間に1回は話しかけたほうがいいでしょう。お互いに一言ずつ話す程度でかまいません。積極的な会話が脳に刺激を与えるのです。

逆に、やってはいけないこともあります。それは相手を急かしたり、「こういうこと?」と代弁したりすること。認知症の方は、自分の思うことをうまく言語化できず、たどたどしくなることがあります。「早く言ってよ!」と焦らせると、次第に会話をしたくなくなってしまうのです。

また、介護者がよかれと思って代弁しても、それが正しいとは限りません。「この人は私の話を聞く気がない」と、悲しい気持ちになります。

このようなことが続くと、ますます心が萎縮し、失語が進んでしまうという悪循環に。重要なのは話の内容ではなく、安心して会話できるかどうか。話をちゃんと聞いているという姿勢を示すことこそが大切なのです。

認知症の方は、同じ昔話を繰り返したり、直近の出来事をすぐ忘れたりするのが特徴だということは、ご存じの方も多いでしょう。

そもそも記憶というのは、目や耳から入った情報を脳の海馬という部分に一時的に保管し、繰り返し思い浮かべ口に出すことで、大脳皮質に送られて刻み込まれるもの。昨日の夕飯のメニューを忘れても、若い頃の経験を覚えているのは、それが大脳皮質にしっかりと記録されているからです。

何度も同じ昔話をされると、聞く側は飽き飽きしてしまうかもしれませんが、相手を否定せず、耳を傾けてください。そうすることで、大脳皮質が活発に刺激され、海馬にもよい影響を与える可能性があります。

そして、長く続く可能性のある介護では、できるだけ関わる人を増やすこと。話し方や接し方の実践も、介護者一人だけがやるのではなく、周囲の人たちみんなでやってほしいことです。