慌てて駆けつけると、母がストレッチャーに乗せられ救急車に運び込まれていく。「お母さん!」と呼んだが、返事はない。病院で処置を待つ間に到着した兄が、「一人で頑張ってたんやな。個室とはいえ、やっぱり他人と生活するって気を使うもんなあ」とつぶやき、その言葉が胸にグサリと刺さった。

幸い一命を取り留め施設に戻ることができたが、以前より一段と弱々しくなったように見えた。

そんな母がある日突然、「お母さん、なんでお父さんに優しくしなかったんかな」と話し出した。「もっと優しくしてあげれば良かった。自分がこんな体になって思うわ。でも、あのときはお父さんがどうしてあんなふうになってるのか、本当にわからんかった」と。

私の中のわだかまりが、スーッと解けていく気がした。きっと彼女は彼女なりに、一所懸命考えていたのだろう。

母との時間が、あとどれだけ残されているかわからない。これからは何気ない時間を大切に過ごそうと思う。

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