できないことも、間違えたことも、致命傷ではない

パンドラの箱における希望よろしく口のなかに残ったのは大きな穴だけながら、私は前向きだった。呪いの斜めビスが体内から去ったのも一因だが、新しい歯科医が自らの見立てに間違いがあったことを即座に認め、修正案をさっと出してきたことが大きい。

人は誰でも間違う。問題は、どう信頼を取り戻すかだ。歯科医は責任をもって最後までやらせてほしいと言った。間違いを認めた人のほうが安心できる不思議。

最近、仕事でもトラブルが発生していた。「できない」「難しい」「間違えた」を言えない人が引き起こした問題だった。できないことも、間違えたことも、致命傷ではない。あとから挽回できるのに。

「間違ったら、わからなかったら、ごまかさず早めに白状しなさい」。幼い私に母はよく言っていた。信頼を一瞬にして無にする行為だと言いたかったのだろう。

穴は数ヵ月で自然に埋まるという。すぐに処置しなかった長老よ、患者の健康より保身を選んだのが見え見えだよ。

失敗は恐ろしい。しかし、失敗のあとごまかさず、かかわった範囲で責任をとることさえできれば、大体のことはなんとかなる。この先、間違いなく私も失敗する。その時、私の真価が問われる。


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年齢を重ねただけで、誰もがしなやかな大人の女になれるわけじゃない。思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。「私の私による私のためのオバさん宣言」「ありもの恨み」……疲れた心にじんわりしみるエッセイ66篇