ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は歯の治療についてのお話の続き。かかりつけの歯科医にインプラント治療をお願いしていいものか、不安をぬぐえぬまま流れに乗ってしまったら、酷い仕上がりになったというスーさん。本当にこれで大丈夫か、担当医に尋ねてみるとーー(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)
「こちらもインプラント治療が必要ですね」と
今号は、長年お世話になっている歯科医院で人生初のインプラント治療に挑んだところ、上顎に埋め込まれたビスが歯茎の付け根からボコッと飛び出す酷い仕上がりになった惨事の続き。
粘膜一枚で覆われてはいるものの、指で右上の歯茎をなぞると、ハッキリとビスの飛び出しがわかる。鏡に向かって上唇をひん剥けば目視もできる。
「これで大丈夫でしょうか」と、私は担当医に何度も尋ねた。彼女は目をきょろきょろさせながら「大丈夫です」と言う。ならば、もっと大丈夫な顔で言ってほしい。
次は、ビスの上に被せる義歯の型取り。U字型の容器に柔らかいガムのような素材を入れて、ガバッとはめるアレだ。
なかなか目を合わせてくれなくなった担当医は、型取りにも手こずった。過去に虫歯の治療で同じことをしたが、その時はすんなりいったというのに。何度も繰り返し、しかし繰り返す理由を尋ねてもハッキリとは答えてくれない。27万円も払った者に対する仕打ちとは思えない。
おかしい。やはり、なにかがおかしい。
歯科医院からの帰り道、思案する探偵が顎を指でなぞるように舌で突起を弄ぼうとしたが、舌先が届かない。恐る恐る指で頬のあたりを押してみたら、突起は小鼻の横にあった。上顎は、思った以上に頭蓋骨なのだ。
型取りの結果を待つ間、今度は並行して治療していた左上の虫歯が割れた。担当医はこともなげに「こちらもインプラント治療が必要ですね」と言う。ご冗談を!