不安定な日々でも、心の栄養になれば

勘九郎 全国巡業の特別公演は2005年に始めましたが、今でも「歌舞伎を初めてご覧になる方はいらっしゃいますか?」と客席に尋ねると、けっこうな数の手が上がります。まだまだ普及していないんだなと。

七之助 生の舞台を初めてご覧になる方が多いですね。父からの教えのとおり、どこに行っても一所懸命演じるのみですが、演目を決める時には、初めて観るお客様のことを考えます。重い時代物が2本連続するのはやめておこうか、とか。演目が決まったら、「難しいからわかりやすくしよう」とはしません。

勘九郎 なんでもかんでもわかりやすくしようとはしたくないですね。最近は、歌舞伎だけではなく、「ニーズに合わせてわかりやすくしよう」という方向に行きがちだと思うんです。頭を使って観ることが少なくなっている。でも、訳がわからないのに本能で涙が出てしまうというような、内面の奥底を刺激するものもある。舞踊は台詞がないから伝わりづらいかもしれませんが、あえてわかりやすくせず、歌舞伎本来の演出で観ていただきたいなと思っています。

七之助 今回の「錦秋特別公演2021」で、兄弟で踊る「甦大宝春日龍神」は、2014年に春日大社の奉納舞踊として創作された演目。最初は村の者たちが春日の四季折々の美しさを踊り、最後に龍神と龍女が荒々しく踊ります。一つの演目の中で異なる雰囲気を楽しめる。直接的に表現するわけではないけれど、世の中が平穏であることを祈りながら踊りたいと思います。