自分で何もかも準備しなければならない

翔大の発熱騒動がなんとか落ち着いたのも束の間、初めて尽くしの生活を一回りして「さあ、これからだ!」というある日のこと。

翔大から変な時間に電話がかかってきた。どう考えてもグラウンドにいるはずの時間。電話の向こうでふぅふぅはぁはぁ…息を切らせながら、ちょっと苛立ったような声で「今下宿に戻ってるところ」と。

学校から30分弱スクールバスに乗ってグラウンドに行くのだが、そのバスに乗せてもらえなかったというのだ。

どうやらスパイクを家に忘れてきてしまったらしい。道具が揃わない状態でグラウンドに向かうのは野球部の御法度。当然取りに帰らされたのである。

思えば中学までの野球は、親が運転する車でどこへでも連れて行ってもらい、試合や練習はどんなにキツかろうと、行き帰りの車の後部座席で吸い込まれそうなくらい大きな口を開けてガーガー寝ていられたものだ。

道具を大事にしたり磨いたり、きっちり揃えて出かけるという管理はこれまで厳しくはしていたが、家だと「揃えた?」「忘れてない?」と声をかける優しい母がいつもそばにいたおかげで、道具を忘れて出かけることはほとんどなかったのである。優しい母…。

どんなに重い荷物も車が運んでくれるし、なんなら途中で忘れたことに気づけば、車でシューと引き返して取りに帰ることもできた。

そんな野球生活から打って変わって、一人暮らしの身で学校や野球に行くことは、自分で何もかも準備して出ていかなければならないということ。

朝起きるところから責任重大で、ほんの少し寝過ごそうものなら1日がそこで終わってしまうのだ。