酒井 「家族の姿の変化」という図を見ると、今やもっとも多いのは単独世帯。2015年には首位で、その割合は増え続けています。
上野 そこには多くの高齢「おひとりさま」が含まれます。「夫婦と子供」世帯だって、高齢夫婦と初老の子どもから成る世帯が多い。そんな社会のなかで今、見えにくいけれど深刻なのが中高年女性単身者の貧困です。これをいち早く問題にしたのが樋口恵子さん。卓抜な名前をお付けになりました。
酒井 貧乏ばあさん、略して「BB」ですね。(笑)
上野 そう。BB問題がなぜ起きたのか。それは昭和の時代に、女を働かせない仕組みを作ってきたからです。白書では女性を就業から遠ざけた要因として、1961年度の「配偶者控除の創設」、85年の「第3号被保険者制度の創設」、そして87年度の「配偶者特別控除の創設」の3つを挙げています。
酒井 どれも一見、女性を守っているかのようにも思えますが。
上野 そこが問題です。まず61年は高度成長が始まった直後。当時、女性の内職が増えました。
酒井 なぜですか?
上野 高度成長で夫の給料は上がったけれど、欲しいものも増えた。三種の神器、新三種の神器と呼ばれた電化製品に、自家用車。それで妻の家計補助収入が必要になったわけです。農村の女性は、ためらわず近所の工場などに働きに出ました。彼女たちはもともと、専業主婦の経験がないからです。
酒井 それまでも農作業に従事するのが当たり前だったのですね。
上野 ところが都会の女性たちは、子どもを預けるところがないし、外で働くのは体面が悪い。だから内職が増えた。その専業主婦たちの収入をなかったことにして課税しないでおくのが、「配偶者控除」です。
背景には、家でケア業務をしっかりやってほしいという政府の思惑があります。家事・育児・介護は女の役割。その代わり主婦の年収103万円までは非課税にしますから、と。
酒井 月に8万円程度の収入なら目をつぶるというわけですね。