上野千鶴子さん(右)と酒井順子さん(左)(撮影:洞澤佐智子)
大正5年の創刊から100年分の『婦人公論』を読み、女性と社会の変化を『百年の女 婦人公論が見た大正、昭和、平成』に綴った酒井順子さん。令和4年の現在、女性を取り巻く状況はどう改善されてきたのか。社会学者の上野千鶴子さんを迎え、語ります(構成=篠藤ゆり 撮影=洞澤佐智子)

<前編よりつづく

「もはや昭和ではない」

酒井 「女を捨てて」男並みに働くか、「女並み」に非正規雇用者などとして働くか。現代の女性たちも、股裂き状態になっている気がします。

上野 問題は、働くとなったらその二択しかないことです。

酒井 令和4年版の白書には、女性の労働状況および、家庭内における家事・育児・介護参画に対する意識調査など、さまざまなデータが出ていますね。

上野 そうです。この白書が発表された時、メディアが飛びついたのが、20代、30代の独身男女の「これまでの恋人の人数」を0人と答えた人の割合。男性が38%近く、女性は24%。そして男女とも、30代の4人に1人は「結婚の意思がない」。なあんだ、そこか、とがっかりしました。

酒井 確かに、話題としては面白いのですが……。

上野 社会的強制力とロマンティック・ラブ・イデオロギー(愛と性と生殖の三位一体を結婚に結びつける思想)の効果がなくなると、結婚や恋愛はかくももろく崩れるという事実が数字で表れている点では面白いとも言えます。日本は同調圧力が強い社会と言われるけど、だからこそ「数さえ増えたら怖くない」とも言えるのです。

酒井 隣の人が恋愛していなければ、私もしなきゃいけないと思わずに済む。みなさん、離婚も躊躇しなくなりましたものね。

上野 この白書が刊行された時、男女共同参画の内閣府特命担当大臣だった野田聖子さんが「もはや昭和ではない」と発言しました。平成を経て令和になっているのに、何を今さらと思った人もいるかもしれません。

でもこの白書は、日本のあらゆる社会制度が「夫婦に子ども2人」という昭和型標準世帯モデルで成り立っているのはもはや時代遅れだという結論を、データを積み上げて証明しています。