85年から86年は、「女・女格差」元年

上野 次の転機が85年。それまで主婦も自分名義で国民年金の保険料を払っていたわけですが、支払わなくても基礎年金をあげましょうとなった。それが第3号被保険者制度で、専業主婦優遇策と言われました。

酒井 ものすごい優遇ですよね。

上野 この制度によって、得をする人が3通りいます。まず、妻の保険料はそれまで夫の収入から支払われていたので、払わなくてよくなった夫が得した。

次に、妻の内職やパートの雇い主。社会保険料は労使折半ですが、夫の扶養控除の範囲内だから、雇い主には雇用保険も健康保険も負担する義務がない。

3つ目は就労調整が起きることで女性の賃金を抑えられる。今は配偶者特別控除の対象となる額が年収150万円まで引き上げられましたが、これを超えそうになると女性は所得を抑えようとする。

結果的に低賃金に抑制することができるため、雇い主が得をする。蓋然性から言うと……。

酒井 わかりました! おじさんたちが得をする。

上野 そのとおりです。「これを専業主婦優遇策と言うな」と、私は30年近く訴え続けてきました。年収150万円を超えるには正社員になるしかない。つまり、女性は非正規のままとどめておきましょうという誘導ですね。

酒井 主婦の働く意欲や、その気になれば伸びた能力も、搾取されている気がします。

上野 おっしゃるとおり。この税制社会保障制度がジェンダー課題の本丸なのですが、廃止しようとすると猛反対が起きる。まず、専業主婦層は既得権益集団になってしまったので、反対する。経営者集団も、もちろん反対します。さらには連合(日本労働組合連合会)からも反対が。