おじさんたちが危機感を持たない理由

酒井 最近の若い男性は、妻もちゃんと収入を得ているほうがいい、という感覚の人が増えているようです。私は、そんな若者に希望を見出したいなと思っています。

上野 そのための必要条件は、家庭内の育児、家事、介護負担の平等化と同時に、長時間労働が抑制され、働き方が変わること。最近、いくらかは変化が出てきていますね。転勤が昇進の条件ではなくなってきているようだし。

酒井 コロナ禍でリモートワークが取り入れられたのも、いい影響かもしれません。

上野 ただしデータを見ると、年収が高いほどリモートワークの実施率が高い。学歴、性別、出身階層などによる格差と分断が進んでいます。格差や貧困は人災です。昭和の時代から半世紀くらいかけて、政治がその仕組みを作って維持してきたわけですから。

酒井 あまりに根深く染みついている。

上野 人間が作ったものなのだから、人間が変えられるはずです。ただ、変えようと思う人たちが永田町にはいない。

酒井 2022年の日本のジェンダー指数は、世界146ヵ国中116位。それを永田町のおじさんたちは、恥ずかしいとは思っていないんでしょうね。国際会議に出席する日本代表が男性だけでも平気でいられる。

上野 でもこのままだと、日本はジリ貧になりますよ。一人当たりGDP(国内総生産)の順位も、労働生産性も低下しています。

酒井 出生率も落ちる一方。出生率が高いのは、共働きでケアの公共化がされている場合だと海外ではデータがはっきり出ているのに、なぜ変えようとしないのでしょう。

上野 おじさんたちが合理的選択をしないのは、ホモソーシャルな組織文化を守りたいからだとしか私には思えません。ホモソーシャルな集団のなかで、男として認められたい。そのためには自己犠牲もいとわない。

酒井 女性という異物を受け入れる覚悟ができないのでしょうね。それにしても今日のようなお話、高校時代に聞いておきたかったです。そうすれば、生き方が違ったと思うんです。

上野 えっ? 酒井さんは、今とそんなに変わらないでしょう。

酒井 やっぱり私も、バリケードの内側でおにぎり握る派だったと思うので。若い頃は特に、さりげなく男性を立てたほうがいいのではと思っていましたし……。

上野 ご著書『男尊女子』でそう書いておられましたね。酒井さんはずっと女性の本音を率直に書くことで今の社会に向き合っている。『百年の女』も力作ですし、社会学者の目も持っておられると感じています。まだまだ課題は多いし、社会は一朝一夕には変わらない。とはいえ、ようやくここまでは来ました。

酒井 家庭で職場で、一人一人が少しずつでも変化のための努力をすることが大切ですね。次の世代のためにも!