「人の肉声がみんな異なるように、書かれた文章から聞こえてくる声も違う。」(岸本さん)

『クマのプーさん』の「さん」の意味

岸本 英和辞典に載っているのは暫定的な和訳です。極端な話、原書に「dog」とあるからといって、「犬」と自動的に訳してはだめ。作者の頭の中には、何色でどんな大きさの犬なのか見えているのだから、それを想像してから「dog」を「犬」に訳しなさいということです。

石井桃子さんが訳したA・A・ミルンの『クマのプーさん』の「さん」は、まさにそういうことだと思います。

酒井 なるほど!

岸本 原書のタイトル「Winnie-the-Pooh」は、クマの名前です。名前のうち「プー」だけを生かして「クマの」と「さん」を付けた。この「さん」は、「お豆さん」とか「フーテンの寅さん」と同じ「さん」なのです。

酒井 親しみを表す「さん」ですね。

岸本 「プーさん」と訳したことで、どんくさいけれど憎めない、あの愛らしいキャラクターが一瞬で表現された。本当に名訳です!

酒井 確かに、「プーちゃん」ではピッタリきません。

岸本 印象がまったく違ってきますよね。