替えの効かないひとりの社会人になりたい

もうひとつの「なにものかに早くなりたい」は、以下のような声だ。

『ゆるい職場――若者の不安の知られざる理由』(著:古屋 星斗/中公新書ラクレ)

「専門家になりたい」
「この職種で一人前になりたい」
「なにかの分野の第一人者になりたい」
「自分はこの道の人間です、と言えるレベルに」
「30歳までにほかの人にはない、大きな成功体験をしたい」
「今は修業期間だと思っている」

こういった、早く社会から"いいね"と認められ、求められるようになりたい、という声も多くの若手から聞くことができる。

今はなにものでもない自分だが、社会の中でいつか組織ではなく自分の名前で、替えの効かないひとりの社会人になりたいという思いを持って仕事に臨むスタイルが見えてくる。

同様に、「自分だけが、まわりから置いていかれる気がしてしまう」といった焦りの声もこういった意識と表裏の関係にあると言えよう。

若者のこうした2つの声、価値観は、ともに現代社会からの要請でありながら、同時に彼ら・彼女らの心の奥底から湧き上がってくる感情でもあると感じる。

この「ありのまま」と「なにもの」、どちらが強いか、どのくらい強いかといったひとりひとりのバランスや気持ちの絶対値は異なるものの、両方の感情が共存していることが、現代の若者のキャリア観の基底をなしている。