母さんの世話はあなたの仕事でしょ
両親は離れて暮らしていたが、5年前、父ががんで倒れて自宅療養に。カツミさんは、介護保険の手続きや自宅介護の態勢を整えるために、張り切って毎週実家通いをした。当時は、兄も妹もカツミさんが介護に詳しくて助かったと、とても感謝してくれていたのだ。
「父を看取り、遠距離介護も終わったとほっとした頃、母に異変が起きたんです。うつのような状態で、食事も満足に摂っていない。認知症の初期症状だったようです。母に一人暮らしをさせるのは無理になりました。きょうだいの誰かが呼び寄せて一緒に暮らさないとダメだと思い、兄と妹に相談したのですが……」
カツミさんは、そのときの兄と妹の驚いた顔が忘れられないという。兄は「仕事が忙しくてとても無理」と言い、妹は「子どもが受験前だし、狭いマンションには呼び寄せられない」と勝手な理屈をこねる。
「もしどちらかに母を引き取ってもらえたら、父のときと同じように、通いで全面的にサポートしようとは考えていました。助け合って母を支えたかっただけなのに、二人とも『ヘルパーなんだから、母さんの世話はあなたの仕事でしょ』と言い、とりつく島もありませんでした。介護のプロである私が引き取るのは当然だと思っていたようです」
親を支えるのにプロもアマもないだろうとは思ったものの、「自分には認知症のケアなんてとても無理」と、必要以上に介護を恐れる情けないきょうだいに愛想を尽かしたカツミさん。夫と二人の息子と住む家に母を呼び寄せ、一緒に暮らすことになった。
「同居を始めてしばらくは、母も家事の手伝いや留守番など、家族の一員としてできるかぎりのことをしてくれていました。私もヘルパーの仕事を続けていましたし。ただ、1年ほど前から認知症が進み、『知らない人が家にいる!』と仕事中に電話をかけてくるようになって。昼間一人で家に置いておけなくなったのです」
この段階になっても、兄と妹は当事者意識がまったくなく、カツミさんにお任せ状態。仕方がないので、カツミさんは、母がデイサービスに行っている間だけ仕事をするようにしたという。仕事でも家でも介護をする生活は気が休まるときがないのではと尋ねると、意外な言葉が返ってきた。