「仕事としての介護と親の介護は別物ですね。仕事では、どうすれば時間内に利用者さんに満足してもらえるかを第一に考えてサービスしていますから。家では、そんな意識はないので、母や自分の都合に合わせて、一緒に料理したり、夜中に洗濯したりしています。認知症でも母はやっぱり母なので、私も娘として甘えることもできます。そのぶん、ガス抜きができているのかも」

うまくオンとオフを切り替えながら、今は母と娘の時間を楽しんでいるというカツミさん。

彼女の場合、ヘルパーの資格を持っていて良かったのは、親に対して早め早めに手を打てたこと。認知症の進行状況に応じて、どのようなケアが必要かがわかる。そのため、事前にデイサービスに申し込んだり、必要な介護サービスを追加したりできた。

「相変わらず『家族にプロがいて良かった』なんて言いながら、母の介護を押しつけて平気な兄と妹たちのことを思うと、腹が立ちますけど」

無責任なきょうだいに怒ってはいるのだが、表情は笑顔のカツミさん。面倒見の良さは彼女の性分のようだ。

ヘルパーの仕事を辞めて両親の介護に専念

プロだからこそ軋轢が生じてしまうこともある。介護福祉士歴10年、老人施設に勤めるマユミさん(55歳)が、仕事を辞めて両親の介護に専念すると言ったとき、施設長も同僚たちも、事業所の誰もが反対した。しかし、結婚後、実家のそばに家を建てて暮らしていたマユミさんにとって、介護が必要になった両親の面倒を見るのは当然のことだった。

「一人娘ですから、両親のことは人任せにはしないと決めていたんです。ヘルパーの仕事を選んだのも、いつか家族に介護が必要になったとき、役に立つと思ったから。みんなが引き留めるのは、人手不足のせいかと思っていたのですが、実際は違いましたね」

マユミさんが仕事を辞める決心をしたのは、母が心臓病で入院中に父が脳梗塞で倒れたことがきっかけだった。幸い母は回復したが、無理はきかない状態。父は半身不随でほぼ寝たきり。両親は娘の助けを必要としていた。

「もちろん一人で両親を介護するのは無理でしたから、訪問介護を頼みました。父は要介護5だったため、ヘルパーさんが毎日通ってきます。私も毎日、実家に寝泊まりして、両親に寄り添っていました」