ベテラン介護士がモンスター家族に豹変?
ところが、ベテラン介護士であるマユミさんは、ヘルパーたちの仕事ぶりが気に入らない。おむつ交換のとき腰を持ち上げようとしたり、入浴介助でもたもたしたりするのを見て、つい「そんなんじゃダメよ」と注意することが増えていった。
そして、気に入らない人は次々に交代させる。ヘルパーたちは萎縮するし、母親もマユミさんの態度にびくびくして、ヘルパーが父のケアに来ているときは部屋にこもりきりになったという。
「父を車椅子に乗せて散歩に連れて行ってほしかったのに、あまりにも杓子定規に『それはできない』と言われて、ブチ切れたこともあります」
両親を守らなくてはと気負いすぎていたのだろうか。もっとよくしてあげたいという気持ちが、ヘルパーたちのお尻を叩くことばかりに向かっていた。そして、とうとう事業所の代表から、「うちの事業所には、ご要望にお応えできるヘルパーがいなくて申し訳ない」と手を引かれてしまった。
「事業所から拒否されて初めて、自分がヘルパーさんを顎で使う“モンスター家族”扱いされていたことに気づきました。今振り返ると、介護士の仕事をしていたとき、患者さんや家族の人から『ありがとう』と言われることが、どんなに励みになっていたことか。そのことをまったく忘れ、担当者に感謝の言葉をかけることさえしていませんでした。家族には、ヘルパーさんたちが気持ちよく介護できるように協力する役目もあるんですよね」
そして、施設の同僚に、「親の専従介護はやめたほうがいい」「仕事は続けたほうがいい」と言われた意味もわかったというマユミさん。
家族の介護に全力を注ぎ込んだ結果、介護士として長年やってきた自分の方法が最も正しいと考え、押しつけてしまった。ヘルパーとしての高い技術があったからこそ陥りやすい落とし穴だ。
「仕事を続けていれば、ヘルパー側の気持ち、家族側の気持ち、どちらも理解できていたかもしれません。今になって、仕事でする介護と家族の介護は違うということがわかりましたよ」
最近は、ヘルパーに任せて、両親から離れて外出することも増えたという。そんなときは母もニコニコしておしゃべりをしていると聞き、苦笑するマユミさんだ。