「自分の親には他人のヘルパーを」が鉄則
100人のホームヘルパーを抱える訪問介護事業所の女性所長は、自社のヘルパーさんたちに、「自分は他人の家に入れ、親には他人のヘルパーを付けろ」とアドバイスしている。所長自身、親の介護で悔いが残ったからだ。
「私の場合は、マユミさんと反対で、ヘルパーさんたちや事業所の事情がわかるだけに、かえって何も言えませんでした。娘なら、親のためにもう少しこうしてほしいと要望すべきところでも、引いてしまう自分がいたんです。サービスする側の事情を汲んで、親のほうに我慢させたこともあります。娘ならもっと親の気持ちになって、いろいろお願いすればよかったです」
プロが親の介護に関わる場合、来てくれるヘルパーにどこまで任すのか、線引きを明確にしていないと、強硬な態度をとってしまったり、逆に遠慮して何も頼めなくなったりしてしまうのだ。
しかし、それが面倒だからといって、すべて自分がやったほうがいいと考えるのも危険。他人と自分の親では精神的な距離感が違う。親は他人なら素直に感謝できる場面でも、身内なら当然と思ってしまいがち。子の側も親が衰えていくさまを受け入れられず、どんどん追い込まれてしまう。
ヘルパーとしての経験があれば、おむつ交換や体位変換、車椅子移乗などを助けられるし、カツミさんのように早い段階で準備をすることも可能だろう。しかし、技術や情報だけでは乗り切れないのが介護の難しさ。ヘルパー資格を持ってはいても、あくまでも立場は「娘」。家族の「ヘルパー」にはなれないのだ。
前出の所長は、「介護するとき、家族の一番大事な役目は、親を精神的に支えること」と言う。身体的なケアは外部の人に任せ、最後の時間をじっくり親と向き合うことこそが大切なのかもしれない。