「手紙」がモチーフの対画
17世紀のオランダ絵画の例もあげておこう。メツーによる『手紙を読む女』。
エリザベス作品の場合は画中画が対画だったが、本作はこれ自体が対画で、もう一点は若い男性が自宅で手紙を書いており、こちらはその手紙を読んでいる。
――恋人からの便りを窓辺で一心に読む彼女のそばで、バケツを抱えたメイドが、壁に掛かった絵を見るため、無遠慮にカーテンを開けている(当時もエリザベス一世時代と同じく、大切な絵はカーテンで保護していたことがわかる)。メイドが見ているその絵は、嵐に翻弄される帆船だ。つまり女主人の恋は順風満帆とはゆきそうにない、という次第。
中野京子
作家、ドイツ文学者
北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、雑誌や新聞の連載、講演、テレビ出演など幅広く活動。『怖い絵』シリーズ(角川文庫)刊行10周年を記念して2017年に開催された「怖い絵」展では特別監修を務めた。他の著書に『名画の謎』シリーズ(文藝春秋)、『名画で読み解く 王家12の物語』シリーズ(光文社新書)、『美貌のひと』(PHP新書)、『「怖い絵」で人間を読む』(NHK出版新書)など多数。近著に『新 怖い絵』(KADOKAWA)、『画家とモデル』(新潮社)など。近著は『災厄の絵画史』著者ブログは「花つむひとの部屋」。