家庭をまったく顧みない夫に不満を募らせ続けてきた妻たち。子どもが独立して夫婦2人暮らしになった今、ふと「夫の突然死」を妄想することも──。1人目は仕事を口実に家族を顧みようとしなかった夫を持つ幸子さんのケースです。
お前は子どもと遊んでいるだけでいいよな
「俺のめしは?」
秋元幸子さん(68歳仮名・以下同)がダンス教室に通い出した頃のこと、玄関を出ようとした時の夫の言葉に完全に愛想が尽きた。子どもたちが就職し、「やっと自分の自由な時間を過ごすことができる」と育児からの解放感を味わいつつあったが、夫の一言で出ばなをくじかれた。
夫(70歳)は、幸子さんが自分の分の食事を用意してから出かけないとムスッとして、あからさまに不機嫌になる。出かけている間にも、携帯電話のメールに「何時に帰るのか」と何度も連絡がくる。返信しないと怒ってしまい、家のなかは重苦しいムードとなる。
幸子さんは北関東の高校を卒業後に事務員として働き、結婚を機に退社してからはずっと専業主婦だった。生まれ育った地域では「女に学歴はいらない」と言われることが多く、短大や大学に行ける女性はほとんどいなかった。18歳で就職し20代前半で寿退社しなければ白い目で見られてしまう。そんな時代を生きた。
娘と息子、2人の子どもに恵まれた。子どもが小さい頃は社宅に住み、子育てや家事はすべて幸子さんが担った。それが当たり前の昭和のおわり。好景気が続き、メーカー勤めの夫は毎日忙しい。「酒を飲むのも仕事」と言っては、連日午前様。朝帰りという日もあった。
土日もいそいそと出勤していく後ろ姿に女性の影を感じ、「本当に、仕事?」と疑うと、夫は「誰の稼ぎで食わせてもらってると思っているんだ」と逆切れして出ていってしまう。さらには、「お前は子どもと遊んでいるだけでいいよな」と吐き捨てた。