本当に《見ている》だけ。見守りカメラか
子どもは40歳前後で、就職氷河期世代。娘は運よく正社員で中小企業に入社したが、長時間労働で体調を崩して転職。妊娠した時は、非正規雇用で働いていたため育児休業がとれず、産後8週間の休業で職場復帰しなければクビになってしまう。幸子さんは、保育園が決まるまでの間、孫育ての応援を買って出た。
孫中心の生活になり、幸子さんの関心は完全に孫に向いた。すると、自分よりも孫が優先されることで夫のやきもちが始まった。夫も娘の家についてくるようになったのだ。子育てをしなかった夫は、孫のオムツひとつ替えられない。赤ちゃんが飲む粉ミルクの調乳なんて、ハードルが高すぎて任せられない。
娘が仕事を持ち帰ってパソコンに向かい、幸子さんは風呂掃除をしている時、孫がウンチをすると、夫は「おーい! ウンチ出たぞー」と叫ぶだけ、その手はオムツにのびない。「孫を見ていて、と言ったら、本当に《見ている》だけ。見守りカメラか」と思うと腹が立つ。
夫に半日孫を任せた時は、幸子さんの帰宅を手ぐすね引いたように待っていた。「あなたは昔、『お前は子どもと遊んでいるだけでいいよな』って言ってたわよ~」と嫌みを言うと、夫は聞こえないふりをする。
娘は娘で自分の夫に対し、「あいつ使えない。男はどいつもこいつもダメだ」とイラッとしている。どうやら娘の夫も長時間労働を言い訳にして、育児や家事をしないようだ。思春期には反抗が激しかった娘だが、いまや「(父と夫が)2人ともいなくなって、私たちで暮らせたら面白いのにね。お父さんの介護なんて無理でしょ。今のうちに離婚しちゃえば」と笑っている。
最近では、夫がそんな母と娘の会話に気づいたのか、必死に料理やゴミ出しをするようになった。けれど幸子さんは、「そんなことで、この何十年の恨みは消えない。今さら離婚も面倒だ。でも、何か仕返しはしたい」と、夫が弱ってきた時を狙って何ができるか考えている最中だ。