伊集院さんいわく、愛犬の老いた姿を見ていると、家に来たばかりの仔犬の姿を思い出すそうで――(写真提供:講談社)
ペットを飼った人が、かならず直面しなければならない別れ。執筆のため、仙台の実家と東京の仕事場を行き来する多忙な日々を送っている作家・伊集院静さんを支えてくれたのは、天国へと旅立っていった愛犬、ノボ・アイス・ラルクの存在でした。著書では、愛犬たちとのかけがえのない時間や、ペットロスから立ち直るためのヒントを紡いでいます。その伊集院さん、「バカ犬」と呼んでいたノボに何度も救われていたそうで――。

歳を取ったノボ

我が家のバカ犬、ノボの背骨の具合いがかなり悪くなった。

八月の初旬、十日程、仙台で仕事になり、その夜中じゅう、かたわらで休んでいるバカ犬の背中、左足をずっと揉んでやっていた。

初めは身体に触れただけで、目を剝いていたのだが、どうも善意でしてくれているとわかったのか、数日したら、私の指先が触れると眠っているのに左足を宙に浮かせるようになった。

八月初旬、人間の年齢なら80歳を越えるノボの具合いがかなり悪くなった(イラスト:福山小夜/『君のいた時間 大人の流儀Special』より)

その態度が、どこか横着で、私が手を伸ばすと、
「ほらよ。揉め」
というふうに見えた。

「おまえ、誰が揉んでやってると思っているの」
と以前なら言ったが、今回は言わない。

バカ犬も歳を取ったのである。

人間の年齢なら、80歳を越える。