耳が遠くなったアイス

バカ犬の兄貴、アイスのほうはもっとだ。

こちらは二年前くらいから耳が遠くなって、背後から声をかけても、じっと庭先を見ているようなことが増えた。

最初はそれを見て笑っていた家人も、この頃心配そうに兄貴犬(アイス)を見つめている姿を見かける。

私も兄貴犬と一緒の時は老いた姿を見ていて、言いがたい感慨を抱く。

『君のいた時間 大人の流儀Special』(著:伊集院静/講談社)

これはおそらくどの飼い主も同じ経験があると思う。

我が家に、飼い主の家に来たばかりの頃の、幼く、若く、何をしてもあいらしく映った仔犬の姿である。

一匹の犬(猫でもいいが)が家の中に入っただけで、これだけ家の中が明るくなり、話がはずむようになったことを、初めてペットを飼った人たちは一様に驚き、妙なことだが職場、学校にいる時でさえ、今頃、あいつはどうしているだろうかと、あの愛嬌のある、まるで自分の子供(兄弟でもいいが)のようなペットの姿を思い出すのである。