たくさんの工夫に支えられて

施設に入るまでは、基本的にひとりで介護をしていました。夫は、困ることはしない人でしたから。

症状はだんだん進んでいきますね。徘徊が心配になる頃になると、私は自宅の玄関を「玄関には見えないように」して、夫が外に出ないようにしていました。玄関に絵を飾って花を置き、さらにレースのカーテンをすると、夫はそこが玄関だと思いませんから、一度もひとりで外には出ませんでしたよ。

それに、外に出ようとするのにも理由があるんです。娘が来たときの話ですが、女同士だから、話が弾みますよね。ずっとおしゃべりに興じていると、ふと、夫がなにか不満げな表情をしていることに気付いたんです。

おや、ちょっとまずいなと思っていると、夫は靴を探しはじめました。のけ者にされたと感じて、外に出ようと思ったんですね。外出したがる理由はそれだけではありませんが、この出来事以降は夫も話の輪に加われるようにしました。

食事もだんだん難しくなりました。お茶碗を持てなくなったり、同じ場所にあるおかずばかり食べてしまったりね。

なので、食器を机に置いたまま食べられるように、シリコン製のテーブルマットを買いました。マットの上でお皿が滑らないから、お皿を持たずにすくえるんです。お皿も中の食べ物をすくいやすい形状のものに替えました。

それと、夫が食べている間は定期的にお皿の位置を変えるんです。すると、同じ場所のものばかりとってしまっても、まんべんなく食べ終わるというわけです。

ただ、ひとりで介護したと言っても、私が孤独だったわけではないですよ。子どもたちもいたし、家族会にも行っていました。症状が進んでからは、月2回、3泊4日のショートステイも使っていましたね。

友達にも助けてもらいました。私、友達は多くはないんですけれど、その分、きっと深い付き合いができていたんですね。特に、長男の同級生のお母さんにはよく電話をして、いろいろな相談に乗ってもらいました。