日本を離れて知った多くのこと

台湾へ来て2年半が経った現在でも、仕事の打ち合わせや会議に出席する時には中国語の会話や説明を録音して、あとで何度も聞き直し、内容をしっかり理解するようにしている。オーディションでも仕事の現場でも、中原さん自身が1人ですべてのやりとりをする。

今、事務所がなくなった不安以上に味わっているのは、習得した中国語で仕事をやり遂げた時の「楽しい!」と声に出したくなるような達成感だという。

「試行錯誤の連続でしたが、それにわくわくするんです。私にとって、そういうお仕事に出会えたのが、台湾という場所だった」

日本の芸能界では珍しくない「元タカラジェンヌ」という経歴は、台湾では多くの人に注目された。また、「台湾でモデルとして活動する」という、他の卒業生とは違う挑戦が、中原さんのやる気を駆り立てた。

宝塚を卒業した人たちはそれぞれが輝ける道を歩んでいて、自分の場合はそれが海外での活動だったと、中原さんは語る。

そして、芸能活動だけではなく、台湾で多くの学びがあったそうだ。大学に通って出会った色々な国の友人たちと母国について語り合うことで、日本の社会のこと、産業のこと、経済のこと……それまで知らなかった日本の姿が見えてきた。

日本の文化や様々な技術が海外でも認められていると知り、「日本人である私こそ、母国をもっと理解しなくては」と考えるようになった。

そして、今までは当たり前だった、四季が巡る日々。その風景にある情緒がどれほど素晴らしいか、日本を離れたことで実感できたという。

 

※本稿は、『すみれの花、また咲く頃――タカラジェンヌのセカンドキャリア』(新潮社)の一部を再編集したものです。


すみれの花、また咲く頃――タカラジェンヌのセカンドキャリア』(著:早花 まこ/新潮社)

宝塚という夢の世界と、その後の人生。
元宝塚雪組の著者が徹底取材、涙と希望のノンフィクション!

早霧せいな、仙名彩世、香綾しずる、鳳真由、風馬翔、美城れん、煌月爽矢、夢乃聖夏、咲妃みゆ。トップスターから専科生まで、9名の現役当時の喜びと葛藤を、同じ時代に切磋琢磨した著者だからこそ聞き出せた裏話とともに描き出す。