(提供:『すみれの花、また咲く頃』より)
109年の歴史を持つ宝塚歌劇団。タカラジェンヌたちが退団後に選んだ道とは? 劇団の機関誌『歌劇』のコーナー執筆を8年にわたって務めた元宝塚雪組の早花まこさんが、彼女たちの思いに迫ります。現在は俳優として活躍する元雪組トップスター・早霧せいなさんは、退団後も肩書に長く悩み続けたそうです。

「いつか必ず、トップスターではなくなる日がくる」

早霧さんの功績として、主演大劇場公演5作連続・観客動員100%超えという驚異的な記録がある。

他業種の人でも彼女の偉大さが分かる数字だが、そう称えられるたび早霧さんはどこか居心地の悪そうな表情を浮かべる。取材の中で、その理由を聞くことができた。

「その記録は、私だけのものではないからね」

雪組生とスタッフの方々。さらにはそれまで雪組を支えてきた歴代のトップスターと上級生たち。この記録は何年にもわたって雪組に携わった大勢の人々による成果であり、自分はただの代表者に過ぎないと。

自分の名誉を誇らしく語るどころか、ここでもっとも早霧さんらしい言葉が飛び出した。

「なによりもまず、記録を作ったのはお客様だよ。この数字は、それだけ多くの方々が足を運んでくださったっていうことだから」

建前ではなく、ただ謙虚なだけでもない。実感したことしか言葉にしない早霧さんだからこそ、宝塚史に残る記録に至るまでの1日1日を積み重ねることができたと思えてならない。

そしてその記録の陰には、トップスターにしか分からない苦しみも積み重ねられていた。