(提供:『すみれの花、また咲く頃』より)

肩書に歯痒い気持ちがある

卒業後のあり方について、早霧さんが他の元トップスターと話したことは殆どないという。同じ「男役」でもそれぞれの個性は当然ながら違うため、誰かをお手本にして真似することはできない。退団後の人生をどう歩むか、それは千差万別だ。表舞台から去る人も多い。

ここが新たなスタート地点―。宝塚から離れた早霧さんは、俳優として新たな人生のキャリアをゼロから始めようと意気込んでいた。

しかし世間は、想像以上に「元男役トップ」として彼女を扱った。

早霧さん自身に不安があったのも確かだ。

17年間ずっと研究してきた「宝塚の男役」、ファンの方々が求める「早霧せいな」という枠組みから外れてみたとき、本当の自分ってなんだろう? と迷ってしまった。

「早霧せいなっていう着ぐるみから幽体離脱して、行き場がなくふわふわと彷徨(さまよ)っている気がしていた」

今まで応援してくれた方々への恩返しの気持ちを土台に、俳優として活動を始めた早霧さんではあったが、「元宝塚トップスター」と言われるたびに歯痒い気持ちがこみ上げる。