「美人ですね」にへこむ美人
卒業後のお話の前に、どうしても聞いてみたいことがあった。
「ちぎさんは、『綺麗ですね』って言われても喜ばないのはなぜですか?」
「うん?」
早霧さんといえば、入団当時から透明感のある美貌に注目が集まった人だ。容姿端麗な生徒がひしめく宝塚の中でも、抜きん出た麗人として認められていた。
しかし、「綺麗」と言われるたび、なんだかぴんとこない……という表情で曖昧にうなずく様子が印象に残っている。
「うーん。外見は、天と両親からの授かりものでしょ。私にとっては、ゼロ地点。だから、そこを褒めてもらうと……もちろん有難いんだけど、『私は、まだゼロなのか』と思ってしまう」
それに、「宝塚の美」は容姿だけではないと考えていた。言葉、所作、心が表れるものとしての美。早霧さんが興味をひかれたのは、そんな美しさの追求だった。
卒業してからも「美の秘訣」について聞かれると、彼女が語るのは決まって「内面の美しさ」についてだ。
「美容法について話したくないわけじゃなくて……実は、よく知らないのよ」
本物の美人はこれだから、とため息が出る。
「いや、本当だってば!!」