イタリアの西の端の漁村での暮らし

私の名を付けたのは、その祖父だった。太平洋の洋。海の子。

「海を越えて、広い世界を見てきなさいよ」

南フランスへと続く、イタリアの西の端の漁村に暮らしたことがある。

『イタリア暮らし』(著:内田洋子/集英社インターナショナル)

かつてその海沿いの道を都ローマに向けて、オリーブオイルや塩、ワインが運ばれていき、代わりに各地から狼藉者(ろうぜきもの)たちが、隣国との境であるイタリア半島最西端へと送られてきた。

そういうイタリアの悲喜こもごもが往来した道を眼下に、6年間暮らした。

家は、もともとは道のない山の急斜面に建っていた。長年、斜面で花とオリーブを育ててきた家主が登っては下りて、やがて獣道のようなものができた。そこを私も通ったのである。