「広い世界を見てきなさいよ」
人里離れた家へ坂を上って帰るたびに、海と山とに〈おかえり〉と抱かれるようだった。
背後に山、目前に瀬戸内海を見る神戸に戻るような気がした。
海を越えてからのほうが、日本で過ごした時間よりも長くなった。
厳しい上り坂に差しかかるといつも、「広い世界を見てきなさいよ」と、海と山に戻った祖父の声が聞こえてくる。
※本稿は、『イタリア暮らし』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
『イタリア暮らし』(著:内田洋子/集英社インターナショナル)
イタリアにわたり40年余り。
ミラノ、ヴェネツィア、リグリア州の港町、船で巡った島々……。
暮らしながら観てきた、イタリアの日常の情景。
常に、新たな切り口でイタリアに対峙してきた内田洋子が2016~2022年、新聞・雑誌・ウェブに寄稿した文章から厳選。
ふだん着姿のイタリアが、ここにある。