(イラスト:丹下京子)

周りの人に「敏感」「内気」と言われることが多い、些細なことでも、深く考えすぎてしまう、他人の気分に振り回されやすく、対人関係に疲れがち…他人と接することが苦手でも、社会で生きていくには避けて通れない場合も。こういった症状を抱えるHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)は最近日本でも認知されつつあります。米国の心理学者が提唱した心理学的概念で、全人口の15~20%、約5人に1人はHSPと考えられています。生きづらさを抱えていた安藤奈美さん(仮名・千葉県・介護職・50歳)が年を重ねて手に入れた力とは――。

20代はノイローゼ状態で

「ほんとにイヤよねーあの人。安藤さんもそう思わない?……もう! 人の話ぜんぜん聞いていないでしょ!」

と、職場の同僚の声。私が勤めているのは介護現場である。体力的にも精神的にもつらいことが多いからか、同僚が集まると愚痴と不満の嵐だ。3号室のAさんに嫌みを言われたとか、介護士のBさんはさぼってばかりだとか……話すことでストレスを発散している。

無視されたことに怒り心頭の同僚を眺めながら、私は「ああ、やっと『話を聞いていない人』と言われる人間になれたんだ……。本当に良かった」と胸をなでおろす。

私が年を重ねて手に入れたのは、「聞かない力」。一昨年『聞く力』という本がベストセラーになったが、私はその逆だ。人の話を右から左へ聞き流して適当に相槌を打ち、どんなに悪意のある一言をぶつけられてもすぐに忘れられる能力。若いうちから自然にできる人もいるだろうが、私の場合は50年を要した。

私はかなりの人見知りで、陰気な子どもだった。親や周囲の大人の出しているわずかな感情の揺れをキャッチしてしまい、よく泣く。また、昔からぽっちゃりした体形がコンプレックスで、友達にからかわれたり、無遠慮な視線にさらされたりしては傷ついていた。