少しずつ役者になりたい自分を認めていった
16歳になるまで外部と遮断され、人と接したことのなかったカスパーを演じるためには、想像力が求められるという。
でも、いくら想像してみても彼のことはよくわからないんですよね。カスパーは言葉は話せなくても、ご飯を食べるとか寝るといった本能的なことを通じて、何かしらの概念体系はできていた…なんてことを知ると、ますます混乱して。仮にカスパーの心理を理解することができたとしても、それをどう表現すればいいのか……。
膨大なセリフ問題もあって。普段はセリフ覚えはいいほうなんですけれど、今回は次元の違う長セリフが続くので、どうやって覚えるんだろう、みたいな(笑)。映像と違ってお客さんの生の反響を感じるのも怖いけれど、だからこそやり甲斐があるともいえるし。演出家のウィル・タケットさんがどう導いてくださるのか、自分がこの舞台を通じて何を感じ、どう変化するのかも楽しみです。とはいえ不安もあって。舞台で演じるってどんな感じなのかは実際に上演が始まってみないとわかりませんね。
不安もあると率直に語るが、そこは実力派。数々の賞を受賞するなど、これまで映像で培ってきた演技力や表現力に期待が集まっている。祖父に三國連太郎、父に佐藤浩市を持つ役者一家に生まれ育ったが、意外にも役者になる気はなかったと振り返る。
僕が初めて出演したのは映画『菊とギロチン』でした。上手く演じられると思っていたのですが甘かった。厳しく指導してくださった瀬々敬久監督に心から感謝しています。
デビュー作で新人男優賞をいただけたのは、確かに嬉しかったけれど、あれは「期待値」を込めての賞だったと思ってます。だからといってプレッシャーとかはなくて、応援してくれる周囲の人のためにも真剣にやっていこうと改めて思ったという感じだったんですけれど。今回もこれまでに一人の人間として経験したこと、それから役者として少しずつ増やしてきた引き出しのすべてを活かして演じたいと思っています。
幼い頃から父に連れられて撮影所へ行って、父の背中を見せてもらっていたし、映画がどうやって作られていくのかも知ってました。役者はもっとも近い職業で、当然、意識してはいたんですけど、僕は天邪鬼なんですよ。周囲の人達から役者になることを勧められると「いやいや」とか言って抵抗したりして。今にして思えば、祖父や父と比べられるのが嫌だったのかもしれません。その実、映画鑑賞が趣味で映画三昧の日々を送っていて、他に興味のあることがなかったんです。だから少しずつ役者になりたい自分を認めていったという感じでした。