作家の川上未映子さん(左)と臨床心理士の信田さよ子さん(右)(撮影:玉置順子(t.cube))
『すべて真夜中の恋人たち』が、小説部門では日本で初めて、全米批評家協会賞の最終候補に選ばれた作家の川上未映子さん。生まれた環境ゆえに苦難が絶えず、生きてゆくために犯罪に手を染める少女たちを描いた川上さんの長篇小説『黄色い家』が話題を呼んでいます。家族問題に長年取り組んできた臨床心理士の信田さよ子さんと川上さんが、家族、お金、社会、そして善悪について語り合いました。
(構成=福永妙子 撮影=玉置順子〈t.cube〉)

<前編よりつづく

親に謝罪を望むのは叶わない祈りのようなもの

川上 私はこの小説で、女性の連帯の可能性を検証してみたいという考えもありました。『黄色い家』では、家族の絆を持たない花が、黄美子さんや少女たちと共に暮らします。

信田 親から大切にされた経験がないと、他人の言動が好意なのか攻撃なのか、見分けがつかないことがあります。花は黄美子さんが自分を救ってくれたと思い、信頼する。親子や家族という繋がりを知らない花が、黄美子さんと関係を築いたことを経て、周りの人と「絆」のようなものを獲得するのが感動的でした。

女性は弱者であるぶん、頼ったり協力したりしないと生きてこられなかった歴史がある。女同士の嫉妬がどれだけ醜いかを知ってはいますが、それでも男性同士よりはるかに繋がることができると思っています。

川上 花は黄美子、蘭、桃子と《家》をつくろうとするのですが、家とか家族って何だろうとも思うんです。親と子の結びつきはかけがえのないものだけど、苦しいし、怖いものでもある。

実際、犯罪の多くが家のなかで起きているといいます。上野千鶴子さんが「家族同然」という言葉が嫌いだとおっしゃっていましたが、それは家族を至上の愛の表現としてみているからだと。