大女優3人と一つ屋根の下で

60年以上、ドラマのプロデュースや舞台の演出を手掛けるなかで、さまざまな役者さんたちとの交流が生まれました。なかには公私にわたってご縁が深まる方もいらっしゃいます。たとえば今、私が暮らしている都内のマンションには、女優の奈良岡朋子さん、若尾文子さんが暮らしています。もうおひとり、京マチ子さんも住んでいらしたんですが――残念ながら2019年5月に、95歳で亡くなりました。

『歳はトルもの、さっぱりと』(著:石井ふく子/中央公論新社)

19年ほど前、以前から親しくしていた奈良岡朋子さんが、「いいマンションができているみたい。あなた、ちょっと見てきてよ」と私に言ってきました。仕事の合間に見に行ったら、私のほうがすっかり気に入っちゃって。仕事場のテレビ局にも近いし、大きな病院もすぐ近くにある。

「今住んでいるところより、ここのほうがいいわ」と、まず私がその場で入居を決めました。そうしたら奈良岡さんが、「私もそうするわ」と後に続いた。お互い、70代でした。

そのうち京マチ子さんが、同居していらしたマネージャーが亡くなられたのをきっかけに、郊外のマンションに移ろうと思っている、と。「そんな遠くに行っちゃダメよ。ここに来たら?」とお勧めしました。高齢でひとり暮らしの場合、近くに知り合いがいると、何かと心強いですから。

最後に加わったのが、若尾文子さん。07年に建築家の夫・黒川紀章さんと死別なさった後、気持ちを変えたいと、ここに引っ越してこられたのです。

同じマンションで暮らしているといっても、べたべたしたおつきあいをしているわけではありません。普段はお互い、立ち入らないようにしています。ただ何か用事があれば連絡を取り合いますし、困りごとがあると、「どうしたらいいのかしら」と相談されたり。どこか具合が悪いといえば、お医者さんを紹介し、場合によっては病院に一緒に行くこともあります。