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『ありがとう』『渡る世間は鬼ばかり』など、数々のホームドラマをヒットさせ、現在も現役で仕事を続けるプロデューサーであり演出家の石井ふく子さん。公私にわたって、長年、俳優や作家など、多くの方と交流を深めてきました。エピソードから見えてきた、石井さん流の友だちづきあいの哲学とは(構成=篠藤ゆり)
電話で他愛ない話をするだけで
この9月で、95歳になりました。一番古い友人は、日本舞踊で同門だった方。山岡鉄子さんといって、私とは「ふーちゃん」「鉄瓶」と呼び合う仲(笑)。私は4歳の時に日本舞踊を始め、学校が大嫌いでしたので、踊りに熱中していました。
立役が多かったのですが、おさらい会の時にいつも相手役になってくれた1歳上の彼女とは、90年近く友人関係が続いています。今は都内の高齢者施設で暮らしていますが、私が演出した舞台は必ず観に来てくれるのです。
私も一時は踊りで身を立てたいと思っていたのですが、足を痛めて諦めることに。その後、短期間ですが「女優時代」があります。19歳で終戦を迎え、戦後、就職先を探している時、ご縁があって「新東宝ニューフェース」に選んでいただいたのです。まぁ、女優は向いていなかったと思いますが。
当時、新東宝で2年後輩だったのが女優の香川京子さんです。私がプロデューサーとして初めてテレビドラマを手掛けたのは、1958年、東芝日曜劇場の『橋づくし』。香川さんにも出ていただきました。考えてみたら香川さんとは、かれこれもう70年以上のおつきあいになります。家庭のことなど、プライベートなお話を伺うこともあるし、今も「最近、どうしてる?」などと時々お電話でお話しします。
今この世の中で、そうそう友人と会うこともできません。先に逝かれた方もいるし、体調を崩している方も。とくにコロナの時代になってからは、人と会いにくくなっています。それでも時々「どうしてる?」「ちゃんとご飯食べてる?」「今日は何食べたの?」などと電話で他愛ない話をするだけでも、心が温かくなります。
声を聞けるというだけでも、ありがたいですね。私はひとり暮らしですし、年齢を重ねれば重ねるほど、人間関係は財産だなと感じます。