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認知症について、どんな症状でどう接したらいいと、書籍や雑誌、ネットに情報はあふれている。頭ではわかっていても、毎日接する家族であればストレスもたまり、ついつい、キツい言葉や態度が出てしまう。元新聞記者の山田道子さんは、認知症が始まった84歳の母と二人暮らし。記者としての冷静な視点で、母の日常と自身の心の動きを分析している。多くの人が直面する介護問題について、実体験に基づく思いと、その解決法を専門家に尋ね綴る連載。第3回目は「男の子、女の子」です。
この記事の目次
「男の子は仕事 女の子は家庭」という意識
父の病死で母の生活は変更を余儀なくされる 弟にも刷り込まれた昭和の価値観 父の遺影の前にマスクメロンが 「男は仕事、女は家庭」の象徴 専門家に聞いてみた

前回「メモリークリニックに行くのを嫌がる母。詐欺事件に乗じてついに連れて行く。要支援1となり玄関には保険で手すりがついた」はこちら

「男の子は仕事 女の子は家庭」という意識

「男の子だから。仕事で忙しいから仕方ない」。母が弟をこうかばった時、開いた口がふさがらず、あごがはずれそうになった。はあ? 私も仕事しているんですけれど……。母が認知症と診断されたのは2019年5月。その前から海外で仕事をしている弟から私に、母の様子を問い合わせるなどの連絡は今に至るまで1回もない。認知症と診断されたことは妻から聞いて知っているのは間違いない。私はともかく、母の誕生日の元旦や母の日でも母のスマホに電話してきた形跡はない。ごくたまに帰国した時、私がいない隙を見計らったかのようにうちに来て、ごく短時間で去っていく。先は長くない。「日本にいる時、一泊ぐらいして母と一緒に過ごしたら」とメールをしても応答はないし、いわんや実行しない。

にもかかわらず、母は毎朝、新聞の株式欄を見て、弟が勤める会社の株価が上がったとか、同業他社より高いとか喜んでいる。30秒前のことは覚えていないのに、弟が勤めている会社や海外で働いていることはまだ覚えている。

「(弟は)いずれ社長になる」も定番だ。虫のいどころが悪いと私は「株が上がっても、私たちに何もいいことないでしょ」「60歳近くなって海外にいる人間は社長にならないと思うよ。社長になるなら日本の本社で役員になっているんじゃないか」と戦闘モードに入る。「ママがそんなに気にかけても電話1本かかってこないよね」と追い打ちをかける。「海外は時差があるから」と母。「時差があっても仕事では会社には電話かけていると思うよ」と反論する。さすがに最近は「社長は無理でも、重役にはなる」に変わってきた。

毎日新聞退社後に再就職した会社も辞めたら、直後に母が膝の痛みを訴えるようになり、まるで介護離職のようになった。フリーになっただけによけい仕事を探さなければならない。女の子だって仕事で忙しい。でも母の中には厳然と「男の子は仕事 女の子は家庭」という性別役割分担意識がこびりついているようだ。「会社を辞めて一日中、家事とごみ捨てをしなさい」と言われたこともある。喧嘩の最後の母の捨てせりふは「結婚もできないくせに」「行き遅れ」である。