◆歌で返していくしかない。僕にできるのはそれだけ

──今年、台湾と香港で開いた記者会見で、6月からはじまるアジアツアーの詳細を発表しました。私は、90年代に同行させてもらったC&Aのアジアツアーを思い出します。まだ日本語の歌が解禁されていなかった時分の韓国では、さまざまなコミュニケーションを重ねて00年にライブを実現。MCのため、現地の言葉を一所懸命に練習するASKAさんの姿もありました。

韓国では取材の席で慰安婦問題を突きつけられたよね。「国と国が手を繋ごうとしているのだから、その質問はしてはならない」と事前に韓国側のスタッフがメディア側に伝えていたことだったので、突然その質問を持ち出されたときは「答えない」という選択肢もあった。でも、無理だよ。突きつけられたわけだから。

慌てて止めに入るスタッフを制止して、僕は自分の考えを述べてみた。正直にね、戦争を知らない世代の言葉で。答えたあと、メディアはもう何も言わなかった。「あ、いま繋がった」と感じたね。僕の受け答えが素晴らしかったのでもなんでもない。「ちゃんと質問に答えてくれた」ということを感じてくれたんだと思います。

韓国公演、大成功だったな。「公演の負債を抱えて事務所倒産」と書いた日本のメディアは恥じるべきだよ。赤字なわけがない。収益となったお金をすべて寄付してきただけ。

今日の日本の音楽業界は、あのときのアジアツアーの成功を伝説のように語ってくれるけど、実際はそんな優雅なものではなかったね。いまでは当たり前になっている海外進出も、当時の日本にはまったくノウハウがなくて。すべてにおいてはじめてのことばかりだったから、スタッフたちの苦労は計り知れない。

そうしてひとつひとつ積み上げていったからこそ、得たものもあったよね。今回、「日本で歌えないなら、われわれの国で歌ってください」と言われて──。あのときにやったことはしっかり形になってた。国と国を繋げるのは政治ではないよ。民間交流だと思います。

 

──昨日今日では築けない、交流。「あ、いま繋がった」と感じたASKAさんの背後にあったのは膨大な「時間」かと。つらいこともきっと、すべていいことに還っていく──長い目で見たら。でも長い目で見られる人ってなかなかいないのかもしれませんね。

まあ、まだまだこれからなので、なるべくいまは楽しいことだけを考えてるよ。負を考え出すと、その瞬間、負に引っ張られるから。とにかくポジティブにいようと。