歌を続けるために事務所を立ち上げて

私はこれまで「本当に必要かどうか」を見極めながら身のまわりのものを仕分けてきましたが、必要性とは違う観点で手元に残したものも、ごく少数ですがあります。

骨董屋さんで出合ったジャン・コクトーの絵、母が子どもの頃に愛した日本人形、両親と私の写真……。これら思い出の品は、40年ほど前に買ったアンティークのキャビネットの上に置いています。

ものは、あるべきところにあると、ちゃんとお役目を果たしてくれると思うんです。だから、「ここにいたほうがいいよ」と感じる場所にそのまま残しました。おかげで私にとってとても特別な、癒やしのスペースになっています。

正直私は、この年まで生きられるなんて想像もしていませんでした。周りの人たちに支えられて今があるのだから、この命を大切に守っていかなくてはと思います。それに50代のような苦しさを再び味わうのは死んでも嫌なので、日々体調を整え、無理はせず、とにかくストレスフリーで過ごしたい。

じつは2020年、歌を続けるために個人事務所を立ち上げました。17歳も年下の友人がマネジャーを買って出てくれて、コンサートを定期的に開くことができるようになり、今は毎日がすごく幸せ。彼女のおかげでガラケーも卒業しましたし(笑)、遅ればせながらインスタグラムでささやかな発信も始めました。

「安奈さんの歌で希望が持てるようになりました」「私も安奈さんみたいに70代までがんばります」。そんなメッセージをいただくことも。歌をやめなくてよかったと、心の底から思います。

私は病をきっかけに多くのものを手放しましたが、だからこそ本当に必要なものを知ることができました。限りある時間を無駄にしないよう、これからもシンプルに毎日を楽しく過ごしたいですね。