リヒトで仕事をするやましたさん(写真提供:やましたさん)

指宿を訪れた夫が言い残した言葉は

私は、家や土地は個人の所有物というよりも、すべて「地球からの借り物」だと思っています。だから自分も含め、住む人の役に立つように手入れをしながら使い続けるのが最低限のマナー。かといって、土地や家に縛られる必要はありません。そのときの自分の状況に合わせて、どんどん住む場所を変えていっていいと思うのです。

私は55歳で「断捨離」を提唱する本を出してからの数年間、家族のいる石川と仕事場のある東京を往復する生活をしていました。義理の両親を見送り、子どもが独立した後、仕事を引退した夫がふとつぶやいたのです。「石川の冬は寒いねえ。もっと暖かい土地で暮らせたらいいのに」と。

その言葉をきっかけに、沖縄にマンションを購入し3拠点生活を始めたのが、63歳のときです。

私は仕事があるのでなかなか沖縄には行けなくなりましたが、今も夫は11月に解禁になるカニを石川で堪能してから沖縄へ移動し、桜が咲く季節に石川へ戻ってくる。そんな避寒と避暑をしながらの暮らしを、愛犬とともに満喫しています。

夫とのコミュニケーションは、時々「どうしてる?」と連絡し合う程度。ほどよい距離感を保っています。指宿のリヒトにも最初の年に滞在しましたが、3週間くらいで「沖縄のほうが暖かい」と言い残して戻っていきました。(笑)

ちなみに東京の仕事場は、自分の成長に合わせてステージを変えるという意識で、これまで6回引っ越しをしています。

なぜこれほどフットワーク軽く移動できるのかといえば、私自身が日常的に断捨離を繰り返し、余計なモノは持たない生活をしているからでしょう。モノを過剰に持つことは、心理的にも重く負担になってしまう。大きな荷物をいくつも抱えて移動するのは難儀ですが、小さなリュック1つなら、思い立った瞬間どこへでも自在に動けます。

特に今回の引っ越し先はホテルですから、家具や家電は持っていく必要がありません。寝具やタオル類も備えつけのものがあります。部屋の清掃も、通常の宿泊プランより回数が少ないとはいえ対応していただけるし、館内に大浴場もある。食事はリヒト滞在客専用のラウンジで取ることができます。

つまり家事に関わる道具をいっさい身のまわりに置かなくていいわけで、それがこれほど楽で快適なのかという発見もありました。

ホテル暮らしといっても長期リトリート滞在の場合は、水道光熱費、インターネット使用料等の諸経費が含まれた費用設定ですから、考え方によってはとても経済的なのです。着替えは滞在期間に合わせた数しか持ち込まないのでスーツケース1つだけ。おのずとお気に入りの服がわかり、不要な服を減らすことにも役立っています。