亀甲船の形状を分析する

まず『朝鮮王朝軍船研究』に記載されているデータをもとに、亀甲船の基本形状をCGに描いてみました(図2)。

図2:亀甲船のCG(作成:佐藤信明/『日本史サイエンス〈弐〉』より)

船型は四角いバージ状の平底船型です。蒙古襲来時の蒙古軍船と同じで、やはり船型上の進歩はまったくなかったようです。

船首船底は側面を円形とし、スムーズに水が流れるようにはしているものの、この船型では速度が上がると抵抗が大きく、波の衝撃が船底を叩き、揺れて走れなくなります。もっとも朝鮮は中国との交易では渤海湾沿岸の静かな海を低速で航行するので、四角い船でも大きな問題はなかったようです。

日本水軍の主力となったのは中型船(20mクラス)の関船でした。

図3は筆者がCGで設計復元した関船です。復元にあたっては、江戸時代末期に実在した御座船の「天地丸」や、復元された約900石積の「浪華丸」などのデータを用いて検討しました。

図3:関船のCG(作成:著者/『日本史サイエンス〈弐〉』より)

とくに浪華丸はサイズ、重量、帆の大きさが判明していて、試運転を行い帆走速度も確認されているので、関船の設計復元に際しては貴重なデータとなりました、

では、亀甲船と関船が受ける抵抗を比較してみます。

船が受ける抵抗は、おもに摩擦抵抗と造波抵抗というまったく違う二つの成分から成っています。摩擦抵抗は船と流体(この場合は水)との間での摩擦によって生じる抵抗で、造波抵抗は船が波を発生させてエネルギーを無駄づかいすることで起こる抵抗です。おおまかにいえば、これらを合わせたものを全抵抗といいます。

亀甲船と関船の全抵抗が速度によってどう変わるかを次ページの図4に示します。

速度3ノットくらいまでは、亀甲船も関船も抵抗値はあまり変わりませんが、4ノット以上になると、四角形の亀甲船は造波抵抗が大きくなるために全抵抗が急増します。これに比較して関船はスムーズな船型で、造波抵抗がそう大きくなりません。6ノットになると亀甲船の全抵抗は関船の2倍ほどになってしまい、実際にはこのような速度では走れません。