針路保持性、保針性に問題も

また、図3を見ると船尾に巨大な舵がついていることに気がつきます。これには、船の長さ(L)と船の幅(B)の比率L/Bという指標が関係しています。

図4:亀甲船と関船の全抵抗の比較(『日本史サイエンス〈弐〉』より)

この値が大きいほど細長くてスマートで、小さいほど針路の保持性が悪くなり、まっすぐに進めません。通常の大型船では6以上が必要とされます。

しかし、この亀甲船は見たところL/Bは3・2ほどと、非常に太短い形をしています。これでは船首が四角いこともあって、針路保持性がきわめて悪いと考えられます。このため、非常に大きな舵を船尾に設置しているのでしょう。

なお、現代の船でいえばプロペラを2個装備する2軸船では、艦艇や客船、高速艇やタグボートなど、L/Bが4程度のものも多いですが保針性は問題がありません。

さらに図3からいえることは、亀甲船は側面積がかなり大きいことです。風が強くなると風圧側面積が大きく、やはり保針性に問題が生じてきます。これでは2021年にスエズ運河で超大型コンテナ船が横風により針路がずれて座礁したようなことが起こりかねないのです。

その意味では亀甲船は、強風下での保針性にも問題がありそうですが、推進は前半部の櫓が受けもち、後半部の櫓は舵取りに特化すれば、なんとか針路保持は可能と思われます。ただし、そのぶん速度は低下するでしょう。