『歳はトルもの、さっぱりと』(著:石井ふく子/中央公論新社)

“おひとりさま”に心強い近距離暮らし

今、私が住んでいるのは、東京・青山のマンション。「ひとつ屋根の下」に、自分も含めてお仲間4人が集まって暮らしていました。メンバーは3歳下の奈良岡朋子さん、7歳下の若尾文子さん。以前は2歳お姉さんの京マチ子さんもいらしたのですが、残念ながら2019年5月に、95歳で旅立たれました。

4人に共通しているのは、世間様から見たら高齢女性の“おひとりさま”であること。そして、子どもや近い身内がいない、という点です。

京マチ子さんは、言わずと知れた日本を代表する銀幕の大スター。生涯独身を貫かれました。奈良岡朋子さんは1950年に劇団民藝の創立に参加し、女優一筋。お芝居を最優先させてきました。そして若尾さんは世界的な建築家・黒川紀章さんと死別し、73歳で再びおひとりになりました。

マンションがあるのは東京の中心部。地下鉄の駅もすぐ近くにあり、徒歩圏内に病院もあります。セキュリティもしっかりしており、コンシェルジュの方が親切でなにかと気にかけてくださるので、ひとり暮らしにはうってつけです。

数年前、昭和世代にテレビで活躍した人たちだけが入居する高齢者施設を舞台にしたドラマ『やすらぎの郷(さと)』が話題となりました。それもあって、オンエア当時、私たちの暮らしぶりはマスコミに〝リアルやすらぎの郷〟などと書かれたものです。

高齢の“おひとりさま”になったら、気心の知れた人と近距離暮らしをしたい。最近、そんなふうに考える人も増えていると聞きます。シェアハウスなどの同居は、プライベートが損なわれそうで抵抗があるけれど、たとえば同じマンションや徒歩圏内に住んで、必要があれば助け合いたい。おひとりさまにとってはなにかと心強いですし、確かに理想的な暮らしかもしれません。