オニバスの幼株を首にかける牧野富太郎(77歳) 1939年7月9日(提供:高知県立牧野植物園)
2023年4月3日より始まった、NHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公・槙野万太郎のモデルとなった牧野富太郎。日本植物学の父と言われる牧野が綴ったエッセイでは、彼ならではの文章で植物の魅力を引き出しています。そんな牧野は人生において、どのように植物と向き合ってきたのでしょうか。

幼い時からなんとなしに草木が好きだった

私は植物の愛人としてこの世に生まれきたように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。ハハハハ。私は飯よりも女よりも好きなものは植物ですが、しかしその好きになった動機というものはじつのところそこに何にもありません。つまり生まれながらに好きであったのです。

どうも不思議なことには、酒屋であった私の父も母も祖父も祖母も、また私の親族のうちにもだれひとり特に草木の嗜好者はありませんでした。私は幼い時からただなんとなしに草木が好きであったのです。

私の町(土佐佐川町)の寺小屋、そして間もなく私の町の名教館という学校、それに次いで私の町の小学校へ通う時分よく町の上の山などへ行って植物に親しんだものです。すなわち植物に対しただ他愛もなく、趣味がありました。

私は明治七年に入学した小学校が嫌になって半途で退学しました後は、学校という学校へは入学せずにいろいろの学問を独学自修しまして多くの年所を費しましたが、その間一貫して学んだ、というよりは遊んだのは植物の学でした。