二度とここには戻ってほしくない
そんなピンぼけな寸評をしながらでしたが、そのあとも「翼をください」「どんなときも。」「贈る言葉(海援隊)」「想い出がいっぱい」などが続きました。
同じ工場のメンバーで曲選びをして、お稽古してこの日が来たんだと思うと、聞きながら涙が出てきました。
参加者の年代はまちまちです。その日私は59 歳でしたが、私より年上の人も多かったですし、あどけない少女のような人もいました。
訳ありと言えば訳ありのオンパレードです。刑務所でお世話にならねばならない理由が間違いなくあるということだけは確かです。
すべての合唱が終わり表彰式です。始まる前に聞いたのは優勝と準優勝を決めようということでした。ただこの日は賞品があるわけでもなかったものですから、私からの提案で全工場を表彰しようということにして、各賞を即席で考えました。
「ハーモニー賞」「ハッスル賞」「笑顔賞」などなど。当然「男前賞」は「宙船」を歌った工場でした。
全工場のリーダーに壇上へ上がってもらい、それぞれに表彰状を手渡すことになりました。
ひと工場ごとに賞状を読み上げて、その時、私から握手を求めたのですが、突然のことに女子は手を引き下げてしまいました。
こういう行為は駄目なんやと思いましたが、部長が「今日はいいぞ」と言ってくださり、全員と握手することになりました。
せめてもの私からのねぎらいがその「おもしろ表彰状」でした。
そして私は、彼女たちには二度とここには戻ってほしくないという思いを強くしました。
それは参加者全員が渋谷や新宿、梅田ですれ違うような、どこにでもいる化粧っ気のない女性たちだったからです。何があってここに来たのか、想像などつきません。