自らが動いてベストな角度を探す
「主役を決めたら、次はどの角度だと花が一番生き生きして見えるかを探します」。なるほど、と腰をかがめる私。先ほど教わった通り、花を画面の中央に置き、わきをぎゅっと締めてスマホを構えた。まっすぐ伸びるストックと縦のグリッド線を揃えてシャッターを押す。
「次は腰をめいっぱい落として、低い位置から撮ってみてください」。洋式トイレに慣れきった身にこの体勢はかなりきついけれど、画面いっぱいに花が息づいている。思わずパチッ。「いいですね。こちら側から花を見てみるとどうですか?」。パチッ。「次はもう少し上に構えてみて」。パチッ。
「矢島さん、膝がきついです」と、ついに泣きを入れた。「いい写真を撮るには、自ら体を動かしてベストな構図やアングルを探すことが大切なんです。スマホの位置がほんの数センチ変わるだけでも、花の表情がまったく違うでしょう。被写体を大きく写したいときは、ズーム機能に頼らず、自分が被写体に近づくようにしてくださいね」。
腰をトントン叩きながら考える。今まで、こんなに体を動かしながら写真を撮ったことってあったかしら。以前は、構えたらすぐシャッターを押していた。アングルを変えるときもスマホを上や横に向けるだけで、足を動かすことはなかった。ああ、プロ気取りでいた自分が恥ずかしい。
被写体だけでなく、背景まで美しい角度を探すのは簡単ではない。写真を撮るというよりも、美しい角度を探すのは簡単ではない。写真を撮るというよりも、絵の構図を考える感覚である。この作業をするかしないかで、完成度に決定的な差が生まれるのだろう。矢島さんは「撮影をして運動もできる。一石二鳥じゃないですか」と軽やかに笑うが、「そうですね」と答える自分の顔には疲れが漂っていたことだろう。とはいえカメラの操作に慣れてくると、「もっといろんな構図で撮ってみたい」という欲が湧いてきた。