帰宅してから間違いに気付き、あわてて銀行に行ったが、老獪な彼女の上司2人に軽くいなされてしまった。消費者センターに相談したところ、親身になって交渉はしてくれたが、解決には至らず。そうこうするうちにリーマン・ショックで値が下がってしまった。
塩漬けにして待つつもりだったが、日一日と下がり続ける数字。暗く憂うつな毎日を過ごした。納得せずに買ってしまったという事実がなおさらこたえた。そしてとうとう耐え切れなくなって売ってしまい、結局100万円を失った。痛手は大きかったが、この時はまだ、長くかかっても働いて、失ったお金を仕事で取り返すつもりでいた。
真面目に生きてきたのにむくわれない
しかし2人の息子に加え、夫が働かずに家に引きこもっている状態は、想像以上に苦しくしんどいものだった。朝、大急ぎで家事を片づけて家を飛び出し、仕事でヘトヘトになって帰宅すると、夫は、朝私が出かけたときの状態のまま。
流しには汚れた食器がグチャグチャに山積みとなり、洗濯物は取り込まれないままベランダにはためいている。自分の弁当箱と一緒に食器と流しを洗い、ごみを捨て、散らばった新聞やチラシを拾い集めまとめる。
何もかもが自分にのしかかる生活が続き、疲れがたまっていく。ある日突然、「もう仕事は辞める。働かない」と決めた。心が折れてしまったのだ。ちょうど実家の母にアルツハイマー型認知症が出始めた頃でもあった。母は電話の勧誘で、高い健康食品を次々に買っていたことが判明。それだけでなく、レストランを経営する私の従兄に1000万円近く貸していたことがわかった。しかし従兄はすでに自己破産しており、返済義務はなく、もちろん返す気もない。
私は2人の引きこもりの息子を抱え、どんなに苦しくても一円も無心したことがないのにと、考えるたびに悔しい気持ちになる。息子たちの将来のために、あの100万円と、この1000万円のうちのいくらかでももらえていたらと、今さらどうにもならないことだがため息が出た。
思いがけない老後を迎え、もしも若い頃の私が、今の私を見たらどう思うだろうか。いや、考えても仕方のないこと。元気を出して一日一日を積み重ねていくしかないのだから。