今回の改装案を素直に受け入れられない要因
確かに私と夫は特殊な夫婦である。
結婚は社会単位としての機能よりも、知性面でのお互いの触発を軸にしたものであるうえ、研究者の夫は世界各地を転々とし、私も自分の仕事のベースである日本での滞在がどうしても長くなる。長い時間を夫婦が一緒に過ごすことはなかなかない。
私がイタリアに戻るか、夫が日本に来た時には一緒に過ごす時間も増えるが、食事も朝食以外は外食がほとんどだ。
義父が設計した夫の実家にも、広いダイニング・キッチンがある。ところがみんなが集うのは居間のテーブル周辺であり、台所の脇にある食事用のテーブルは今や姑のモノ置き場と化している。私の母も働き詰めのシングルマザーだったので、彼女が建てた家のダイニング・キッチンも書類や楽譜に埋もれた事務室と化していた。
要するに、私も夫も、キッチンを自分の砦とするような母親に育てられてこなかったことも、今回の改装案を素直に受け入れられない要因となっているのだろう。