信念を貫き通したいのが人という生き物

台所には食べ物があり、調理のための火があり、そして何より家の守り主である母親がいる。家族が結束し、暖かさを供給してくれる、人間にとって命の拠り所とも言える場所であることは違いない。

イタリアの食卓(撮影=ヤマザキマリ)

しかし場合によっては、我々のように、食料庫よりもプライベートな空間のほうを生きるうえで優先したいと考える家族もいる。

改装業者は、妻である私からも台所の大きさはそれほど重要ではないと直接聞いて、「それならまあ……」と納得してくれたが、別れ際に「でも奥さん、意向が変わったらいつでも教えてくださいね。台所は家族の要ですよ」と念を押された。

何はともあれ、自分たちの信念を貫き通したいのが人という生き物なのである。


歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!