そもそも僕はほとんど新たにモノを買いません。手元の愛用品を使えば、買わなくても十分事足りてしまう。

たとえば、今日着ているジャケットは40年以上前のものです。時計も半世紀は使っているかな。ズボンは1970年代に職人気質の洋服屋さんであつらえたもの。

頑固な人でね、太めのベルトが流行った頃、ベルト通しを5ミリ広げてほしいとお願いしたら、オーダーメイドなのに「嫌だ」と断られた。太いベルト通しなんて美意識が許さなかったようです。そういうところも含めて尊敬していました。

生地も仕立てもいいのでしょうね。ずっとはき続けても折り目がとれませんし、膝が出てくることもない。もうこの洋服屋さんは亡くなってしまいましたが、70年代に仕立てたものが十何本か手元にある。ズボンはここ40年くらい買ったことがありません。

その時々の流行に合わせて裾幅を調整したり、身長が縮んできたものだから丈詰めをしたりと、少しずつ直してはいます。お直しに持って行くたび、受付の職人さんが、ベルト通しの付け方を見たり、ポケットをひっくり返したりして、いかにも感心したという風情で、「いやー、いい仕事してますね」と言ってくれる。こういう反応もまたうれしい。

英国人は品質の良いモノを購入し、長く使うといいます。その精神には共感しますが、長く手元に置いておくのは、必ずしも高価である必要はありません。チープでも、粗悪であってもいい。何かしら心に引っかかるものと長く一緒に過ごすうちに、モノとの関係は深まっていくのですから。