ロンドンブーツから五月革命を想起する
洋服だけでなく靴や鞄、カメラ、電化製品、写真、手紙、CD、ビデオテープにカセットテープ、旅行の土産品……こういう愛すべき「ガラクタ」に囲まれて僕は生活しています。
一見どうでもいいモノたちなんだけれども、ひとつひとつに思い出がいっぱい詰まっていて、愛着がある。だから見ると、記憶がパッと呼び覚まされるんです。そんな記憶を蘇らせる「依代(よりしろ)」になってくれるモノたちを、僕は愛情を込めて「ガラクタ」と呼んでいます。
たとえば、1968年、パリで起きた五月革命のときに出合ったロンドンブーツ。あのとき、セーヌ川左岸では学生と警察隊が激突し、有名ブランドのブティックは軒並みシャッターを下ろしていた。そんななか一軒だけ靴屋が開いていたんです。
乱闘から一時避難するために店に入ってみたら、当時大人気だったロンドンブーツが目に入った。そのブーツのジッパーがなんと日本のYKK製。その瞬間、これも何かの縁と考え、大枚はたいて買ってしまいました。
でも、かかとが高いし、裾幅の広いパンタロンじゃないと合わない靴だから、一度も履く機会はありません。今日まで部屋の片隅に放り出してあります。
でも、このブーツを手に取ると、あのときの催涙弾のにおいや銃声、公共サービスが停止して腐臭を発していたパリの様子が、噴水のように蘇ってくる。