違いが生まれた理由

それに「かわいいもの」を表す接尾辞「コ」をつけて「チャコ」。山形側では「チャコ」、宮城側では音が変化して「タコ」なのだそうだ。

『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(著:今井むつみ、秋田喜美/中公新書)

鹿児島県喜界島(きかいじま)の方言ではネコのことを「グルー」と言う。ネコの喉を鳴らす音から「グルグル」というオノマトペが生じたそうだ。

この「グルグル」からネコを呼び寄せるときに使う呼び寄せ語「グルグル、グルグル」が生じ、さらに、「グルグル」の重複部分を取り末尾を長音に変化させて、ネコを表す名詞として使うようになったそうである。

そもそも共通語の「ネコ」という名詞にも、昔は鳴き声を「ネーネー」と写し、それに「コ」という接辞がついたのが由来という説がある。現代では、ネコの鳴き声を「ニャン」などと写し、幼児語ではネコを「ニャンコ」とも言う。

つまり、ネコを象徴し、模倣するのに、鳴き声が使われている。しかし、ネコを模すときに使うのは、甘えるときに発するかわいい鳴き声とは限らないのである。

鳴き声のほかにも、「グルグル」という喉の音だったり、ネコを呼ぶときに人が立てる音だったり、ネコを指すオノマトペのもととなるものは複数ありえるのだ。そこに、方言や言語によるオノマトペの違いが生まれるのである。