コミュニティ外でオノマトペは通じるのか?
ただ、オノマトペの音と意味のつながりは、母語話者でなければまったく感じられないかというとそういうわけでもない。オノマトペを一つ言われて、何を指しているかと問われると正解するのは難しいかもしれない。
しかし、大股でゆっくり進む動作と足を小股で細かく動かしながら進む動作を見せ、どちらが「ノシノシ」でどちらが「チョコチョコ」かを尋ねる実験のように、対立する概念に対して二つのオノマトペを提示し、どちらのオノマトペがどちらに対応するか尋ねると、その言語を知らない人でも偶然より高い確率で当てることができる。
多くのオノマトペのアイコン性は、特定の言語コミュニティの中で対象の持つ複数の特徴の中から選ばれ、見出されたものである。だからその言語コミュニティの話者は、そのオノマトペに対して強いアイコン性を感じる。
しかしコミュニティの外の人間には、それほどのアイコン性は感じられない。多くの場合、まったく感じないわけではなく、いくつかの候補の中からの選択なら、ランダムよりは高い確率で正答できる。
つまり、母語の外のオノマトペには、概してうっすらした音と意味のつながりなら感じることができる。オノマトペでその程度なので、オノマトペでない一般語に感じる音象徴はもっと弱い。
※本稿は、『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)の一部を再編集したものです。
『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(著:今井むつみ、秋田喜美/中公新書)
日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。